Fabulousの発売にあたり、開発段階からご協力頂いたハーモニカ奏者の田中光栄さんに、「Fabulousの良さ」について語っていただきました。
僕はFabulous48を発売日(2008年6月7日)の約半年前からテスト的に使わせて頂きましたが、もう完全に自分のメイン楽器になっていますね。「もう今までのハーモニカには戻れないな~」というのが、率直な感想です。
まず、音の「座り具合」が抜群ですね。ハーモニカは普通に吹くとどうしても「浮ついた軽い音」になりやすい。それも魅力な場合も多々あるのですが、ハーモニカが主役の音楽には「どっしりした音」が欲しくなるものです。それプラス、Fabulousは今まで味わったことのない「太い音」「甘い音」「滑らかな音」が出ますね。特に低音における重心の低い音、粘りのあるジューシーな音は完全に「やみつき」です(笑)。これは他のハーモニカには無いものですね。それらを非常に安定して出してくれます。音のツブも自然に揃いやすい。わかりやすく言えば「上手に演奏出来る」のです(笑)。そりゃ~戻れませんよね(笑)。演奏していて「安心感」を与えてくれる楽器なのです。
もちろんそれは大きいとは思います。ボディーは全ての振動を受け止める土台ですからね。でも実を言うと僕は「金属ボディー否定派」だったんですよ。ハーモニカは発音するもの自体が金属なわけで(リード)、ボディーも金属だとそれこそ全てが金属になってしまう。「キンキン」したうるさいだけの音になりかねない。僕はこのFabulousのもっとも優れた部分は「トータルバランスの完成度」だと思っています。「金属ボディー」という部分に注目がいきがちだと思いますが、「リードまわりの設計にこそ、神髄がある」と僕は声を大にして言いたいですね。その設計があったからこそ、この金属ボディーの良さを十二分に引き出している。事実、Fabulousのリードプレートをプラスチックボディーのモデルにはめてみたり、他のリードプレートをFabulousボディーにはめてみたり、それぞれカバーもはめ替えたり、オタク的にかなり色々試してみましたが(笑)、不思議なくらいどれも良くなかったです。ボディーのくり抜き方にもかなり入念な設計をしたことと思いますね。ここまで完成度の高いハーモニカは初めてです。
p(ピアノ)~pp(ピアニシモ)あたりで表情が付けられるんですよ!これは今まで使ってきたものには無かった感覚です。そのような弱音は出せても、そこに幅はあまり無かったので、単に「小さい音を出す」という以上の表現は極端に難しいものだった。これは自分の演奏スタイルとの兼ね合いだとは思いますが、僕はFabulousの最大の魅力はこの「弱音における表現力」にあると思っています。大袈裟に聞こえるかもしれませんが「他とは次元が違う」と僕は感じています。
それと同時に「コイツのff(フォルテシモ)はいったいどこなんだ?」というくらい、大きな音が出る!他のものは「リミッター」がかかるような感じで、吹き方に気をつけて、大量の空気を吹き込んでも限界点が出てしまうんですね。「もうこれ以上出ません~~」って楽器が言うんです(笑)。Fabulousは限界点が見えない。吹き方次第でまだまだイケそうな気になる。大きな音出してる時でも「余裕」があるから、表情も付けられる。だから表現力の幅が他よりも圧倒的に広いですね。確実に。
もちろんです!まずベンド。ベンドのかかり具合はリードまわりの精度で決定します。「この音ではベンドがよくかけられるんだけど、この音では綺麗にかからないんだよな~」ということを経験した人も多いでしょう。コントロール技術的なものもあるかもしれませんが、これらは楽器自体のリードまわりの精度のバラツキであることがすごく多い。具体的にはリードとリードプレートとのわずかな隙間のバラツキがベンドに影響を与えるのですが、それは0.0何mmという世界。Fabulousはこの部分に徹底的にこだわって生産しているんですよね。ベンドのかかりは抜群です!
またビブラートのかかりも絶品ですね。空気(息)にまとわりつくように音が鳴ってくれるんですね。リードと空気が非常にタイトな関係。だから僅かなビブラートから大胆なビブラートまで全てリードが追従してくれる。非常に美しいビブラートがかけられます。
「息漏れ」の一番大きな原因はまず「マウスピース&レバーまわり」の部品精度で決まるんですよね。Fabulousのスライドレバーは歪み、バリを排除し相当な時間を掛けて部品を生産しているとのこと。またそれによりレバーの動きも非常にスムーズです。演奏性の向上に大切な部分ですね。マウスピースも本当に細かい部分で入念に仕上げているように思えました。またリードプレートも厚くしてあることで歪みにくいので、これも影響しているのかもしれませんが、気になるような「息漏れ」は感じられませんね。何本か吹かせてもらいましたが、いわゆる「ハズレ」は無かった。息が自然に音に変換されているようなタイトな吹奏感がありますね。
すごくバランスが良いと思います。
基本的にストレート配列は少ない息で軽くリードが反応します。レバーの押す距離も短いので、軽やかなプレイがしやすいのはストレート配列ですね。ただし、息を多めに使って楽器を「鳴らす」という音はクロス配列の方が出しやすい。だからクロスの方がダイナミクス(強弱)豊かに歌い上げるようなプレイに使いたくなる感じです。
また音色的なことや息の量はボディーサイズの影響もかなりあります。基本的に12穴はまとまり感のある音で息少なめ、16穴はもっと広がる大きめな音で息多め。
それらをトータルに考えると、まとまりのある音(12穴)に軽くスムーズな操作性(ストレート)を、広がる大きめな音(16穴)にさらにダイナミクス(クロス)を、というのはお互いの特徴が良く出るセッティングですね。
もちろん、逆バージョンの配列もあると面白いとは思いますが、バリエーションがあり過ぎても選択に困る(笑)。この2種類だって、どちらか1本と言われたら困るのに(笑)。ただし、実際これらは聴いている人にはあまり違いなどわからず、あくまで吹き心地の違い、という部分が大きいので、「慣れ」でいかようにも対応出来る部分であるとも思っていますけどね。
クロマチックに較べたら10ホールズの作りはものすごく簡単ですよね(笑)。ボディー自体の設計にはほとんど苦労は無かったのでは?(笑)しかし、その分10ホールズはリードまわりの設計がものをいいますね。この金属ボディーを活かすためのリード設計がまず肝心だと思いますが、トータルバランスがやはり非常に優れていますね。音に関しては、クロマチックよりも作りがシンプルな分、この金属ボディーの影響が音にストレートに反映されるのか、ある意味「金属的な音」がします。でも「キンキンする」というのとはちょっと違う。「ズドン!」と突き抜けてる感じですね。音の重心は低く、重厚さを感じるので「カッコイイ音!」というのが率直な感想ですね。
この楽器の個性、良さを引き出す、という部分では個人的にはその路線に使いたくなりますね。アコースティックな現場よりもバンドなどでラウドな音で演奏する時に威力を発揮しそうです。今までのどんなハープよりも確実に「一歩前へ出るサウンド」を持っていますから。いわゆる「音圧」があるのです。でもクロマチック同様、弱音での表現力も素晴らしく、pp~ffまで非常に安定しているので、メローなものからパワフルなものまで、どんなジャンルでももちろんOKですけどね。
ちなみに僕は10ホールズはMR-550(PURE HARP)とFabulous10を使い分けていこうかなと計画中です。MR-550は「広がるようなサウンド」ですからね。そうすれば僕の中にある10ホールズに求める音のイメージの全てと+αまでを網羅出来そうです!これは楽しみです。
ベンドは相当かけやすいですね。ベンドした音(下がった音)の安定度が抜群ですし、こもった音にもなりにくいですね。金属ボディーの恩恵がこの辺にあるのかもしれませんね。なんせ音がブレにくい。
また「オーバーブロー」「オーバードロー」がむちゃくちゃかけやすい!!驚きです。特に「オーバードロー」がこんなにかかるものは初めてです!色んな可能性が見えてきますね。
本当の意味で久々に「新製品」が出たな、と感じております。過去のモデルをブラッシュアップした製品でなく、新しいコンセプトで作った製品。えてして、その手のものは「やはり過去の名器にはかなわない」ということがよくありますよね。しかし、Fabulousシリーズは新たな名器になると確信していますね。沢山の人にオススメしたいけど、本音は「自分以外の人に使われたくない」ってのが正直なとこ(笑)そのくらい「自分の楽器」という感覚になっているので、コイツを使って誰よりも良い音を出してやるつもりです(笑)まだまだ良い音が出る気がしてならない。
また、このFabulousには不思議な体験もしています。本来ハーモニカは「消耗品」で、使うほどにダメになってゆくものですが、なんとこの楽器は使うほどに音が良くなっているようなのです!!(もちろんリードは消耗品だから交換は必要ですけどね。)このボディー材は管楽器と同じ「ブラス(真鍮)」。管楽器は使い込むほどに「鳴ってくる」もの。同じ材質なのだから、その可能性は十分に考えられますよね。やっと「一生物」のハーモニカが出てくれたかと思うと、嬉しくてたまりませんよ!(壊れたハーモニカを捨てる時に何度涙したことか…)沢山吹き込んで「自分の音のする楽器」に育てていく楽しみも増えたってわけです!!!ちょっと、もう手放せませんね。このFabulousシリーズ、本当に大好きですよー!!